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広島地方裁判所 昭和28年(行)2号 判決

津山市川崎五百七十二番地

原告

福井幸吉

右訴訟代理人弁護士

柴田治

広島市霞町

被告

広島国税局長

竹村忠一

右指定代理人

西本寿喜

加藤宏

服部賀寿男

島津巌

米沢久雄

吉田豊

杉本米市

右当事者間の昭和二十八年(行)第二号所得税金額決定に対する取消請求事件につき、当裁判所は次の通り判決する。

主文

被告が原告に対し昭和二十五年七月十三日附通知書を以てなした審査決定及び昭和二十七年十一月六日附通知書を以てなした誤謬訂正決定の各取消並に右誤謬訂正処分が無効であることの確認を求める原告の訴はいずれもこれを却下する。

前項の審査決定が無効であることの確認を求める原告の請求を棄却する。

訴訟費用は原告の負担とする。

事実

原告訴訟代理人は「被告が原告に対し、昭和二十五年七月十三日附通知書を以てなした審査決定並びに昭和二十七年十一月六日附通知書を以てなした誤謬訂正処分はいずれもこれを取消す。訴訟費用は被告の負担とする。」との判決を求め、右請求が容れられない場合の予備的請求として、「被告が原告に対してなした右各決定が無効であることを確認する。訴訟費用は被告の負担とする。」との判決を求め、請求の原因として、

(一)  右各決定取消請求の点につき、「原告は肩書住居地において自転車販売業を営むものであるが、昭和二十四年分所得税については、津山税務署より津山市内の自転車商組合員に総括的に所得金額を指示し、これを組合員間に割当て、右割当てられた金額を以て確定申告することとなり、原告に対しては金三十六万円が割当てられた。原告は右金額を諒承することはできなかつたが、組合間の交誼を考慮し、やむなく右金額を以て確定申告をした。然るところ津山税務署は、昭和二十五年二月二十五日、原告の昭和二十四年分所得金額は金五十五万円である旨の更正決定をした。そこで原告は、昭和二十五年三月十九日、被告に対し審査の請求をしたところ、被告は同年七月十三日、原告の昭和二十四年分所得金額が金五十五万円である旨の審査決定をし、同月二十七日原告に対しその旨通知した。然し原告は右決定を承服することができないので、更に同年八月十七日、同十八日の両日被告に対し再審査の請求をしたところ、被告はその請求を受理し、同年十一月六日、前記審査決定に対する誤謬訂正として、原告の昭和二十四年分所得金額が金五十二万一千七百円である旨決定し、同月十二日原告に対しその旨通知した。然しながら原告の昭和二十四年における損益計算の結果は金三万五千四百八十二円の損失であつて、同年分の所得金額は零であるというべきであるから、被告のなした前記各審査決定の取消を求めるため本訴請求に及んだものである。」

(二)  右各決定無効確認請求の点につき、「仮りに右取消請求の訴が不適法であるとするも、昭和二十四年分の原告の所得は前記の如く損失という結果が出ているにもかかわらず、津山税務署長並びに被告は、何等の調査もせず、所謂見込課税の方法により原告の所得金額を決定したのであるから、その審査決定は重大且つ明白な瑕疵があるということができる。したがつて被告のなした前記各審査決定は無効であるというべく、その無効確認を求めるため本訴請求に及んだ。」と述べ、

(三)  被告の本案前の各抗弁を否認し、「被告は前記の如く、当初の審査決定に対する原告の再審査請求を受理した上、当時施行中の所得税法第五十条に基き前記の如く再度審査決定をしたものであつて、それが独立して訴の対象になることはいうまでもない。仮りに右誤謬訂正の決定が同条に基く決定でないとするも、右は当初の審査決定と同一形式の決定であり、所得税法にかかる決定を許さないとの規定もないのであるから、取消請求の対象となる行政処分であることはいうまでもない。なお審査決定に対し再審査の請求があつた際、被告が右請求を受理すると、国民は再審査の決定あることを期待し、当初の審査決定に対する訴の提起を猶予するのであるから、この点よりいつてもその後なされた再審査の決定につき訴の提起は許さるべきである。右再審査の決定があつた旨の通知は、昭和二十七年十一月十二日に原告に到達し、本訴はそれより八十七日目である昭和二十八年二月七日に提起されたのであるから出訴期間を徒過していないことは勿論である。」と述べ、

立証として甲第一乃至第二十八号証を提出し、証人岡洋・同中瀬節子・同佐古憲太郎・同椋代武夫の各証言を援用し、乙第一、二号証、第五号証、同第七乃至第九号証、同第十一号証の各成立は不知、その余の乙号各証の成立を認める、と述べた。

被告指定代理人は本案前の抗弁として、「原告の審査決定取消の訴はすべて却下する。訴訟費用は原告の負担とする。」との判決を求め、その理由として、(一)被告がなした当初の審査決定に対する原告の取消請求の訴について、「右審査決定は昭和二十五年七月十三日になされ、同月二十七日その旨原告に通知されたが、本訴は昭和二十八年二月七日に至つて提起せられたので、既に行政事件訴訟特例法第五条所定の出訴期間を徒過しており不適法である。」(二)被告がなした誤謬訂正処分に対する原告の取消請求の訴について、「(イ)右訂正処分は、被告において自発的に原審査決定の内容を再検討した上、その一部に誤りがあることが判明したので、その一部を取消したものであつて、当時施行中の所得税法第五十条に基く審査請求に対する審査決定とは性質の異なるものである。右訂正処分通知書に「所得税法第五十条により決定」とあるのは、便宜用紙を流用し右箇所の抹消を忘れたものであり、右通知書にも誤謬訂正の旨の表示があつて、所得税法第五十条の決定でないことを明かにしている。したがつて右訂正処分は独立して訴の対象となる行政処分ではなく、出訴期間の起算日も当初の審査決定通知書を受理した日から起算すべきであり、而して既に出訴期間を徒過していること前記の通りである。(ロ)仮りに右訂正処分が独立して訴の対象となるとしても、右訂正処分は既に確定した所得金額金五十五万円を金五十二万一千七百円に訂正し、所得金額金二万八千三百円を取消したものであるから、右訂正処分を取消すことは却つて原告の不利益に帰し、したがつて右取消の請求は訴の利益を欠き不適法というべきである。」と述べ、

本案につき、「原告の主張事実中、原告が自転車商を営むこと、原告が昭和二十四年分所得金額は金三十六万円であるとして所得税確定申告をしたこと、原告主張の各日時において、津山税務署が原告の右年度分の所得金額は金五十五万円である旨更正決定し、原告がこれに対し審査を求め、被告が右同額の審査決定をしてその旨原告に通知し、原告が更に異議の申立をしたので(但しそれは広島国税局所得税課審査係長服部賀寿男に対しなされたもの。)、被告が右所得金額が金五十二万一千七百円である旨の誤謬訂正通知を原告に対しなしたこと、はそれぞれ認めるが、その余の事実は争う。被告は十分調査をとげた上、原告の昭和二十四年分所得金額を金五十二万一千七百円と決定したものである。」と述べ、

立証として、乙第一乃至第十一号証を提出し、証人服部賀寿男の証言を援用し、甲第一、二号証、同第四、五号証、同第七号証、同第十四乃至第十九号証、同第二十七、二十八号証の各成立を認めるが、その余の甲号各証の成立は不知、と述べた。

理由

第一、先ず本案前の抗弁について判断する。

(一)  被告が原告に対する昭和二十四年分所得金額及び所得税額につきなした審査決定の取消を求める原告の訴は、出訴期間の徒過により不適法である。即ち成立に争のない甲第十七号証並びに弁論の全趣旨によれば右審査決定は昭和二十五年七月十三日になされ、同月二十七日原告に通知されたことが認められ、訴状に押捺の裁判所受付印によれば本訴が昭和二十八年二月十日に提起されたことが認められるから、所得税法第五十一条第二項所定の出訴期間を徒過していることは明かである。後記の如く後になされた誤謬訂正の決定が右審査決定の一部取消であると考えられる以上、後に誤謬訂正の決定がなされたことにより、右当初の審査決定に対する出訴期間が更めて進行を開始したとなすべき理由はない。

(二)  被告が原告に対する昭和二十四年分所得金額並びに所得税額についてなした誤謬訂正決定の取消並びに無効確認を求める原告の請求は訴の利益を欠き不適法である。

成立に争のない甲第二号証、第十七号証、証人服部賀寿男の証言により成立を認めうる乙第十一号証によれば、被告は右誤謬訂正決定により、さきに原告に対する審査決定により決定した昭和二十四年分所得額五十五万円を金五十二万一千七百円に、同所得税額金二十六万六千二百五十円を金二十四万七千八百五十五円に減額し、その差額について審査決定の一部を取消したものであることが十分窺われる。(甲第二号証の誤謬訂正通知書には「所得税法第五十条の規定により決定した」旨の記載があるが、右は不動文字であつて書式の体裁からも審査決定通知書を代用し右不動文字の抹消を忘れたものであると認められるので、右記載を以ては前記認定を左右することはできない。)そうすると、右誤謬訂正決定の取消並びに無効確認を訴求することは却て原告の不利益に帰することになり、訴の利益を欠くものとして不適法であること明らかである。

以上の説示により明らかなとおり、本件審査決定の取消、本件誤謬訂正決定の取消及び無効確認を求める原告の各訴はいずれも不適法として却下を免れない。

第二、次に本案につき考えてみる。原告は、被告が本件審査決定をするにあたり何等の調査もせず、所謂見込課税をしたものであるから無効である旨主張するのでその当否について判断する。

(一)  証人服部賀寿男の証言により真正に成立したと認められる乙第一、二号証と、証人服部賀寿男・同岡洋の各証言を綜合すると、大蔵事務官福田守・同雇員岡洋は、原告の昭和二十四年分の所得金額調査のため、同年十月二十九日原告方に赴き、その営業用帳簿が不整備であるため、一部売上仕入の帳簿を利用した外、主として原告の説明により、その所得金額を計算し、乙第一号証添付の原告に対する基準調査箋等基準調査に関する書類を作成し、右書類に基き本件審査決定がなされた。

(二)  証人佐古憲太郎の証言、原告本人尋問の結果により真正に成立したと認められる乙第四、六号証と、右証言及び原告本人尋問の結果を綜合すると、津山税務署長は原告の属する岡山自転車リヤーカー商業協同組合に対し、各組合員の所得金額を査定するについて、その個人別資料の提出を求め、右組合より津山税務署長に対し乙第四号証の報告書並びに乙第六号証の変更報告書を提出した。

(三)  証人服部賀寿男の証言により真正に成立したと認められる乙第五号証並びに右証言によると、大蔵事務官岡本一三は、前記審査決定並びに誤謬訂正決定をなすにつき、昭和二十五年六月及び同年九月六日の二回に亘り原告備付の帳簿を精査し、且つ原告の説明を聴き、その説明に基き外部よりの資料を得るため訴外政安克己等につき調査をした。

以上の各事実を認めるに十分であつて、証人中瀬節子、原告本人の各供述中、右認定に反する部分は信用し難く、他に前記認定事実を覆すに足る証拠はない。そうすると、被告は調査の上前記審査決定をしたものであつて原告主張のように見込課税をしたものでないことが明かであるから右審査決定が無効である旨の確認を求める原告の請求は失当として棄却すべきである。

よつて訴訟費用の負担につき民事訴訟法第八十九条を適用して主文の通り判決する。

(裁判長裁判官 宮田信夫 裁判官 五十部一夫 裁判官 竹村寿)

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